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   「うわ〜やった! デートだ!」

   電話を切ると、鳳はベッドの上で小躍りしてしまった。

   今日は、実を言うと<クリスマスイブ>だったりする。

   鳳は、宍戸からイブに誘われるなんて、全く考えていなかったのだ。

   鳳と宍戸は恋人同志のはずなのに、おかしな話だが。

   それは9月の宍戸の誕生日に全て原因がある。 

   鳳は、宍戸をデートに誘って、断られた過去があるからだった。

   「今さら、この年で誕生会なんていいよ。

    みんな試験で忙しい時期だしな。また来年な、長太郎」

   宍戸は笑ってそう答えた。

   鳳は驚いたが、特に何も言わなかった。いや、言えなかった。 

   いろいろと恐ろしい事を考えてしまったからだ。

   その時、鳳はいくつかの仮説を立てている。


<その1> 宍戸亮の記念日嫌い説。
        男気あふれる宍戸は、男同士で誕生日なんて祝うもんじゃね〜と思っている。
        それならクリスマスなんてもっての他に違いない。

<その2> 宍戸亮のパーティ嫌い説。
        10月に<跡部景吾の誕生会>が跡部邸で盛大に開かれた。毎年恒例行事(?)らしい。
        テニス部レギュラーは全員強制参加だったが、「迷惑だよな」と宍戸が
        繰り返し言っていたのを鳳に目撃されている。
        そして今晩<クリスマスパーティ>が同じく跡部邸で開かれるが、
        強制では無いため宍戸は辞退していた。それなら鳳も行っても
        意味が無いため「家族と過ごすから」と断っている。

<その3> 宍戸亮の遠慮説。
        宍戸は照れ屋なので遠慮した。
        ただし<宍戸がはずかしがり屋の照れ屋サン>だと信じているのは鳳だけである。
        氷帝3年は全員<宍戸は図太い>と思っている。

   この3つの仮説はまだ良い。問題は、最後の一つだった。

<その4> 宍戸亮は鳳長太郎を恋人だと全く思っていない。

   考えたくも無いが、本当はこれが一番有力な説なのかもしれない。



   鳳は、その<誕生日お断り事件>の後、何度か悪夢にうなされていた。

   もともと二人がつきあい始めたきっかけは、夏のあの大会――

   氷帝が青学に惜敗した関東大会の日だった。

   その反省会の帰り道。落ち込んでいた鳳を、宍戸が慰めてくれていたのだが、

   その時にポロリと鳳は告白してしまったのだ。

   「好きです。宍戸サン。俺とこれからもずっとつきあってください!!」

   その場の雰囲気でつい言ってしまい、うろたえて焦る鳳とは対照的に、あっさりと宍戸はOKしたのだ。

   「ああ、別に良いぜ」

   その時は、踊り出したいくらい最高の気分だった。

   でも、後で良く考えて、鳳は大失敗したと思ったのだ。

   (宍戸サンは、<つきあう>の意味が良くわからなかったのかもしれない)

   (<友達づきあい>も<先輩後輩のつきあい>も、全部<つきあう>じゃないか?)

   (何で、<恋人としてつき合って欲しい>って言わなかったんだよ〜!)

   後悔先に立たずとはこの事だった。  

   その後も何となく怖くて、宍戸に真実をきちんと確認していない。

   (今日のデートが良いチャンスかもしれない)

   (もう一度、宍戸サンに告白してみよう)

   それで、恋人同志だと確認できれば、問題は無い。

   だがもしも、宍戸が恋人だと思っていなかったら?

   (うわ〜〜〜〜俺の人生真っ暗闇?!)

   鳳はそんな考えを消し飛ばすように、頬を両手で叩いた。目は完全に覚めて、頭も冴えてきた。

   それから、急いで顔を洗い、髪をセットすると、着ていく洋服を念入りに選び始めた。

   すると、また携帯電話が鳴る。宍戸からだった。

   「あ、長太郎か? 悪ぃ〜言い忘れたけど、ウォーミングアップはすませてから来いよ」

   「ウォーミングアップ??」

   「ああ、すぐ打てるようにな。それから……」

   宍戸が待ち合わせ場所として告げたのは、室内テニス場のある会員制テニスクラブだった。

   どうやら鳳は<テニスの練習>に誘われたらしい。

   (この人、もしかして今日がイブだって事にすら気づいて無いのかもしれない)

   思わず、脱力してよろめきそうになる鳳だった。

   でも、クリスマスパーティよりもテニス……と考えるのは、とても宍戸らしいようにも思える。

   鳳はすぐにトレーニング用のジャージに着替えると、近所の公園まで走り出した。

   そこでストレッチやスタートダッシュや走り込み、素振りのホーム練習を繰り返し行った。

   それも、普段よりかなり念入りに。鳳の身体が自然に動いてしまうような感じだった。

   とにかく何の用事だろうが、宍戸に会えるだけで鳳は嬉しくて嬉しくて仕方無かったのだ。




                                     
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